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広島高等裁判所松江支部 昭和38年(ネ)101号 判決

控訴人(附帯被控訴人) 被告 林春雄

訴訟代理人 江谷英男

被控訴人(附帯控訴人) 原告 北但金融有限会社

訴訟代理人 山崎季治

主文

本件控訴を棄却する。

原判決中被控訴人(附帯控訴人)敗訴の部分を取消す。

控訴人(附帯被控訴人)は被控訴人(附帯控訴人)に対し、金二〇万円に対する昭和三二年一一月五日から完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は第一ないし第三審を通じ、全部控訴人(附帯被控訴人)の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決中控訴人敗訴の部分を取消す。被控訴人の請求を棄却する。本件附帯控訴を棄却する。訴訟費用は第一ないし第三審を通じ、全部被控訴人(附帯控訴人)の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は本件控訴及び附帯控訴につき主文同旨の判決(二〇万円に対する年六分の割合による金員請求部分の始期を繰下げることにより、当審において請求の減縮がなされた。)を求めた。

当事者双方の事実上の陳述、証拠の提出、援用、認否は、左記の点を附加する外原判決の事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

控訴代理人は、被控訴人のいわゆる名板貸の主張に対して、

(一)商法第二三条は取引より生ずる責任につき適用があるものであるところ、訴外大成武代が被控訴人に対し負担する債務は、偽造手形により金員を詐取した不法行為上のものであるから、商法第二三条と関係がない。

(二)そうでなくとも、本件手形が偽造である以上商法第二三条を適用または準用することはできない。偽造された者は如何なる場合も手形上の責任を負うことはない。

(三)そうでなくとも、控訴人は営業を廃止しその商号は消滅したので、商号の貸与者とはなり得ないものというべく、商法第二三条の責任を負ういわれはない。又かように営業を廃止した場合は、すくなくとも他人の商号使用を放任、傍観したことを以て黙示の許諾を与えたと解すべきでない。けだし不作為による許諾が禁反言原則の効果を生ずるにはその不作為が一定の義務違反を構成するものであることを要するところ、既に営業を廃止している者には、商号使用者に不正目的あることが明らかに認識できた等特段の事情ある場合を除き、その差止をなすべき義務はないからである。而して本件においては右特段の事情は存しない。

(四)以上の主張がすべて理由ないとするも、営業主を誤認して取引したものに誤認につき過失が存するならば、商法第二三条によつて責任を追求し得ないものであるところ、被控訴人には控訴人を双葉自動車修理工場の営業主と誤認するにつき重大な過失が存したものであつて、この点からも被控訴人の主張は失当である。

と陳述し

被控訴人(附帯控訴人)代理人は、附帯控訴の点につき、

本件手形が支払呈示期間内に支払いのため呈示されなくとも本訴状送達の日の翌日たる昭和三二年一一月五日から控訴人(附帯被控訴人)は遅滞の責に任ずることになる。

と陳述した。

控訴代理人は当審差戻前及び差戻後における控訴本人尋問の結果を援用し、後記甲号各証の成立を認め、被控訴代理人は甲第六号証の一、二を提出し、当審差戻前及び差戻後における被控訴会社代表者西村好男尋問の結果を援用した。

理由

被控訴人が、金額二〇万円、満期昭和三二年一月三一日、支払地振出地ともに鳥取市、支払場所鳥取銀行本店、振出日昭和三一年一二月八日、振出人鳥取市藪片原町五〇番地双葉自動車修理工場林春雄と記名があり、その名下に「林」の捺印がある約束手形(甲第一号証)を所持していることは、控訴人の明らかに争わないところである。

被控訴人は、本件手形は訴外大成武代が控訴人の代理人として、直接に本人の記名捺印をして振出したものであると主張するけれども、これを認めるに足る証拠はないというべく、却つて、甲第一号証振出人の記名捺印部分と、原審証人中島義治の証言により控訴人自身が双葉自動車修理工場を経営していた当時使用していた印章による印影であると認め得る検乙第一、二、三号証並びに成立に争いのない乙第一〇号証裏書人の記名捺印部分とを対照し、原審証人中島義治、同川元康夫(第一、二回)の各証言、原審及び当審差戻前差戻後の各控訴本人、被控訴会社代表者西村好男尋問の結果を総合すると、後記認定する如く、本件手形は控訴人から自動車修理工場の建物等を賃借して、右修理業を営んでいた大成が、その営業資金として被控訴人より二〇万円を借受けるに際し、偽造印章を使用し、控訴人に無断で作成したものであることを認めることができる。したがつて本件手形が真正に成立したことを前提とする被控訴人の第一次的主張は理由がない。

次に被控訴人は、いわゆる名板貸の法理によつて控訴人は本件手形振出人としての責任を免かれ得ないものと主張し、これに対し控訴人は、被控訴人において営業主を誤認したとしてもその点に過失があり、請求は失当であると抗争する。

成立に争いのたい甲第五号証、第六号証の一、二、乙第八ないし第一一号証、弁論の全趣旨により成立を認め得る乙第三号証の一、二、第四ないし第七号証、原審証人川元康夫(第一、二回)の証言及びこれにより振出部分の成立を認め得る甲第二、四号証、原審証人中島義治、同田河宏、同森下一、同北村準一、同田中政儀、同島田正夫の各証言、原審及び当審差戻前差戻後の各控訴本人、被控訴会社代表者西村好男各尋問の結果(但し控訴本人、被控訴会社代表者尋問の結果中後記措信しない部分を除く。)を総合すると、

控訴人はその父林兼太郎の経営する酒類販売業林兼太郎商店(後に株式会社林兼太郎商店に改組)の営業の中心となつて働いていたが、右酒店に使用する数台の自動車の修理代も月々相当額に嵩むため、右修理代の節約にも資することになるし、新たに自己の名で自動車修理販売業を営もうと考えたこと、そこで父より資金の拠出を受けて、右酒店店舗及び自宅より四-五〇米離れ、同じ通りに面する鳥取市藪片原町五〇番地に自動車修理工場を建設し、従前右酒店自動車の修理を依頼していた工場に働いており、予てより控訴人が技能、人柄を見込んでいた前記大成武代を修理技術責任者として雇入れ、又他に工員数人を雇つて、昭和二八年六月頃右工場において「双葉自動車修理工場」なる商号を以て自動車修理販売業を始めたこと、然し控訴人は右酒店の業務が多忙であり、又もともと自動車修理販売については何等の経験もないところから、大成に対し工場責任者として自動車修理の責任を持たせることはもとより、自動車販売についての対外交渉、販売代金、修理代金の集金等具体的の業務一切をほとんど一任し、控訴人自身は、僅か自己の友人知人に自動車の買入修繕を勧誘することはあつたが、営業面には顔を出さず、大成から毎月営業報告を徴し、時折工場を見廻つて監督し、資金面の手当をする等のことをしていたこと、部品代等支払のため小切手や約束手形を振出す時は、控訴人において右酒店の使用人である訴外中島義治に命じ、同人が右酒店内で保管する「鳥取市藪片原町五〇番地双葉自動車修理工場」「林春雄」のゴム判、「林春雄」の印章を使用してこれを作成していたこと、そのうち大成は控訴人の信頼に背き、工場の運営も適切でなく、営業成績は挙らず、控訴人に対する月々の営業報告も怠りがちとなつたので、控訴人は昭和三〇年一〇月遂に右自動車修理販売業を廃業することにしたこと、ところが大成は、右工場を賃借りして自動車修理販売業を自己が独立して経営したいと申し出たので、控訴人はこれを許すこととし、右酒店の自動車修理代が大凡一個月二万五〇〇〇円かかつていた実績にかんがみて、右工場の建物工具等一切を一個月二万五〇〇〇円で大成に貸与し、右賃料と修理代を相殺し、修理代が右金額を大幅に超過するときは翌月清算することとしたこと、

右の次第で、大成は昭和三〇年一〇月控訴人が経営していたと同じ場所建物で、中断することなく全く同種の事業を始めたのであるが、商号として控訴人の明示の承諾なくして従前どおり「双葉自動車修理工場」を使用したこと、又その頃直ちに控訴人に無断で「双葉自動車修理工場」及び「林春雄」のゴム判、「林」の印章を作成し、同じく無断で昭和三〇年一〇月一二日株式会社鳥取銀行本店に「双葉自動車修理工場林春雄」の名義で当座預金口座を開設して小切手取引を始め、又手形取引にもこの名義を使用したこと、控訴人経営当時修理工員は四・五名程度いたが、約半数は大成が引続いて使用し、又事務員も引継がれたこと、控訴人は経営者が引続き自己であると誤認されることからくる不測の事態には考え及ばなかつたこと、そこで、税務官庁に対し廃業届こそ出したけれども、広告等によつて営業の廃止もしくは営業主が交替した旨を一般に知らせる方法を採らないことはもとより、知れたる得意先等に対してもその旨を周知徹底させることをしなかつたこと、控訴人経営当時の未収掛金は引続いて大成に集金させ、したがつて大成から得意先に対し控訴人営業当時の掛金とその後の掛金が一しよに請求され、しかも従前から勤めていた事務員が引続き集金に廻るような事情にあつたこと、控訴人は昭和二九年一月五日より株式会社日本勧業銀行鳥取支店に「鳥取市藪片原町五〇双葉自動車修理工場林春雄」の名義で当座預金口座を設けていたが、事業を廃止しても口座の閉鎖をせず、その後大成において同銀行支店に対しスクーターを納入し、あるいは自動車の修理をなしたが、同銀行支店において、双葉自動車修理工場は引続き控訴人の経営にかかるものと誤信し、右代金が右口座に振込まれたのに、控訴人は右金員を大成に引渡すのみで、なお経営主が変つたとして口座の閉鎖をせず、結局右の如くして前後一〇回位も大成に対する修理代金等の振込みがあり、大成が行方をくらます僅か前の昭和三二年八月漸く解約がなされたこと、控訴人は大成がスクーターを他に納入し、あるいはアフターサービスに出向く際、必要があれば時折車体に「林兼太郎商店」の記載ある自動車を貸与してこれを使用せしめたこと、なお控訴人は右酒店の自動車修理の用事があつたりして、大成の経営になつても時折右工場に顔を出していること。

被控訴会社代表者西村好男は、昭和三〇年春頃近所の林節医院に勤務する事務員訴外川元康夫より、大成を「控訴人の経営にかかる双葉自動車修理工場の工場長で、実際の経営一切を委せられている人」として紹介を受けたこと、右川元は市民病院の医師より右工場の紹介を受けたものであり、その関係で右林医院は昭和二九年末か同三〇年始め頃右工場よりスクーターを購入し、その間川元は右工場を訪れた際、控訴人と大成同席の上食事を供されることがあつたりして、林兼太郎商店は相当手広くしかも堅実に営業し、したがつて控訴人は信用のある者であり、又工場においては大成が責任者の地位にあること等を承知し、よつて右工場及び大成を極度に信用するに至つたこと、川元が右の趣旨を伝えて説得するし、又林医院が右工場と取引していることを現認して、西村も右工場及び大成を信用するようになつたこと、そうして被控訴会社も同三〇年七月川元のすすめでスクーター中古車を右工場より購入し、その修理等のため西村も時折右工場を訪れて大成と親しくなり、ついで経営が大成に移つた後である同三一年七月にはスクーターを大型新車に買換えたこと、その後間もなく大成は被控訴会社に赴き、西村に対し「林医院に入れる車を大阪にとりに行くのに金が要るから貸してくれ、同医院から金を貰つたら支払うから。」と懇請したこと、西村は、大成がスクーターを運んで来た際も林兼太郎商店の記載ある四輪貨物自動車を使用しており、近所の林医院へも右自動車が来てアフターサービスをしているのを現認しており、スクーター修理等のため右工場に出入りした際格別模様が変つているとは見えなかつたので、依然として控訴人が右工場を経営しているものと信じ、近所の林医院への納入車なら代金の回収も容易である関係も考えて、本件手形と同一振出人名義にして大成の偽造にかかる約束手形一通の交付を受け、一五万円を利息日歩二〇銭支払期日一個月後の約で手形貸付けしたが、右貸付金は支払期日に完済されたこと、同年一二月八日再び大成が被控訴会社に来て西村に対し「銀行に当座があるが、工場の資金として現在のところ枠一杯つかつているので、おやじ(控訴人のこと)が他から都合してこいといつた。」と称し、二〇万円の貸与方を申入れたこと、西村は前同様右工場は依然として控訴人の経営であると信じ、前の貸金も回収されたことから大成の言を信用し、控訴人自身に当つてみることはしないで、大成が偽造した本件手形の交付を受け、二〇万円を日歩二〇銭の約で手形貸付したこと、

を認めることができる。

控訴人は本人尋問において、自分は営業を廃止する時知れたる得意先のすべてに対し、電話あるいは直接口頭を以て自己の営業を廃止する旨伝え、更に工場建物の屋根に掲げてあつた「双葉自動車修理工場」の看板を下して附近の空地に捨て、入口附近に道路左右から見られるよう立ててあつた巾一尺長さ五尺位の「シルバーピジヨン販売店双葉自動車修理工場」の看板中、「双葉」なる文字は白ペンキを以て抹消させ、引続き右商号が使用されることのないよう努めた旨供述する。しかし原審証人田河宏、同北村準一の各証言によると、訴外北村準一は鳥取銀行本店に勤務する銀行員であるが、控訴人と中学生時代からの友人であり、その関係から控訴人経営当時右銀行は双葉自動車修理工場からスクーターを購入し、その修理等のため北村は右工場に出入りしたこともあるところ、控訴人は北村及び右銀行に対し営業主が交替したことを通知しておらず、右銀行は前記の如く、大成が林春雄名義を以て当座預金口座を設定したのも、真実従前どおり控訴人が右工場の経営主として設定したものと誤信し、引続き右誤信の下に取引したことが明らかであり、かように友人関係から控訴人自身において開拓した得意先にも通知していないのであるから、偶々何かの機会に得意先に営業主の交替を告げたことがあつたにしても、一般的には得意先に対し通知したものでないと考えざるを得ず(控訴人は、通知を受けたとする得意先を証人に申請するようなこともしない。)、この点についての控訴人の供述は措信できない。原審証人森下一は、自分は自動車運転手で自動車修理のため右工場に出入りしていたが、営業主交替前後商号が変つたと思わないと供述し、被控訴会社代表者西村好男も、同人に対する尋問結果において、屋根の着板のことは覚えないが、経営者の交替前後看板が変つたという記憶はないと供述し、控訴人自身抹消させた「双葉」のあとに他の商号を入れさせたとはいわないところであるから、要するに、立着板の「双葉」の文字がかりに抹消せられたとしても、第三者をして営業主が交替したことを察知させるよう気を配つた消し方ではなく、素材は同一なのであり、他の文字に異動がなく、新たな文字の挿入もないため、一見従前と変らない立看板とみられる状態にあり、又屋根の看板がかりになくなつていたとしても、建物の同一性、右立看板と相まつて、全体としては一見看板に変動がないとみられる外観を呈していたものと察せられる。控訴人自身「大成が如何なる商号で営業しているかは全然関心がなかつた。」とも供述するところであるし、要するに控訴本人尋問結果中前記認定に反する部分はすべて措信できないというべきである。なお、被控訴会社代表者西村好男尋問の結果中前記認定に反する部分も措信できず、又前顕乙第一、二号証、同第三号証の一、二、同第四ないし第九号証によると、大成は取引において双葉自動車修理工場大成武代又は大成武という表示を用いたこともあることが認められるが、被控訴人との取引においてかような表示を用いたことを認めるに足る資料はないことではあるし、前記認定に影響を与えるものでないというべく、他に前記認定を左右するに足る証拠はない。

自己が営業主であると誤認されるような状況をつくり出したものは、積極的に誤認を阻止すべき義務があり、これをしないで放置する限り、黙示的に自己の氏名又は商号の使用を他に許諾したものとして、営業主を誤認したものに対し商法第二三条による責任を負わなければならない。控訴人は自宅より僅か四-五〇米離れた同じ通りに面する従前これにより自己が営業をなしていた建物を大成に貸与し、その工具も貸与し、これらによつて全く同種の事業を経営することを同人に許したものであり、その間事業は中断することなく続行され、又従業員の約半数は引継がれ、従前より控訴人は工場に顔を出さず大成が責任者として振舞つていたので、人的関係にもさして異動がない状況にあり、第三者からみれば引継き控訴人が経営しているとみるつが当然な状態がつくり出されておりながら、控訴人は営業主交替の広告、通知をするとか、看板を他の商号に積極的に書き改めさす等、第三者が誤認することを阻止する手段を採らないで放置し、時には前記の如く当座予金口座を利用させ自動車を貸与し、むしろ営業主の誤認を招く挙動に及んだものであるから(氏名又は商号が使用されていることを明らかに知つていて放置したという関係でないが)、その氏名又は商号が引続いて使用されることを黙示的に許諾したものといわざるを得ない。控訴人が何かの機会に大成に対し商号を使用しないよう異議を述べ、あるいは得意先に対し営業主の交替を告げたことがあつたにしろ、右の状態からいつて誤認を阻止したといえないこというまでもない。

前記認定事実からして、被控訴会社代表者西村が右工場の営業主は控訴人であると誤認した点につき過失もないということができる。かりに、注意してみれば右工場看板の異動に気付く筈であり、又一方では手広く堅実に酒店を経営しているものが、右工場の方では最近に至り二度も高利でわざわざ田舎の金融業者に融資を求め、しかも本人は来ないというのであるから、西村としては事業の実態に不審を持ち、営業主の交替があるのではないか確めてみるべきであり、営業主の誤認に過失があつたと考えざるを得ないとしても、すくなくともそれは重大な過失ではなく、したがつて控訴人が名板貸人としての責任を負うべきことに変りはないということができる。けだし現代の商取引は益々表見的事実を信頼せざるを得ないのであつて、表見的事実をつくりだしたものの責任は軽視できず、取引の安全を保護する見地から、これを誤認したものに重大な過失がある場合のほか名板貸人は責任を免かれ得ないと解すべきだからである。

よつて控訴人は商法第二三条により本件手形振出人としての責に任じなければならないというべく(本訴においてはもとより手形債務が追求されているもので、大成による不法行為上の責任が追求されているものでない。手形振出が無権代理となる場合であろうと手形の偽造の場合であろうと、商法第二三条の適用はある。なるほど同法条は名板貸人は貸与を受けたものと運帯して弁済の責に任ずといい、一方手形を偽造したものに手形上の責任はないけれども、然し名板貸人が手形上の責任を負うことに変りはない。又自己の営業を廃止したものは、もはや名板貸人の責任を負うべき余地はないとすることもできない。これらについての控訴人の主張はとることができない。)、手形金額二〇万円の支払いを求める被控訴人の請求を認容した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないので棄却することとする。

次に附帯控訴について考えるに、被控訴人(附帯控訴人)は本件手形を支払呈示期間内に支払いのため呈示しなかつたことは自認するところであるが、控訴人(附帯被控訴人)は本訴状が送達されることにより、送達されたこと記録上明らかな昭和三二年一一月四日より遅滞の責に任ずべきものであり(当時被控訴人(附帯控訴人)は本件手形を所持していた。)、手形金額二〇万円に対する同月五日より年六分の割合による利息金の支払いを求める被控訴人(附帯控訴人)の請求部分も正当として認容すべく、原判決中これを棄却した部分は失当として取消を免かれない。

よつて控訴につき民事訴訟法第三八四条、附帯控訴につき同法第三八六条、訴訟費用につき第八九条第九五条第九六条を各適用し主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高橋英明 裁判官 竹村寿 裁判官 干場義秋)

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